売れる味より、寄り添う味を選ぶ。佐藤酒造店が守っているのは、「飲みやすい辛さ」だった

佐藤酒造店が守っているのは、昔ながらのやり方そのものではない。
守ろうとしているのは、後味が軽く、ふくらみがあり、日常に自然と寄り添う「飲みやすい辛さ」だ。
その味を守るために、この蔵は設備を更新した。
それでも、全部は機械に任せなかった。
取材の日、佐藤さんはタンクの前で櫂を入れていた。
泡の動き、蓋の張り方、棒を伝ってくる感覚を見ながら、その日の発酵を少しずつ整えていく。
今は、華やかな香りや甘みのわかりやすいお酒のほうが、選ばれやすい傾向があるという。
それでも佐藤酒造店が選んでいるのは、そうしたわかりやすさとは少し違う味だ。
守りたい味のために、人と機械の境界を決め続ける。そのことが、タンクの前の静かな手つきから伝わってきた。
「軽い掃除機が欲しい」の奥を見る。販売員が売っていたのは、一台の商品ではなく“買った後の満足”だった

「軽くて、テレビ台の下をしっかり掃除できる掃除機が欲しいんです」
売場では、こうした要望に対して、条件に合う商品を素早く案内することが正解に見えやすい。実際、それで話がまとまる場面も多いだろう。
けれど今回の接客では、そこで終わらなかった。
販売員は、お客様の言葉をそのまま条件として処理するのではなく、その言葉の奥にある生活背景を見にいった。そして最終的に提案したのは、最初の要望にいちばん近い一台ではなく、買った後により納得しやすい一台だった。
この一コマには、販売という仕事の目立ちにくい本質がよく表れている。商品を説明することではなく、相手の暮らしにとって何を優先したほうが満足につながるのかを、一緒に整理していくこと。日々の売場で当たり前に行われているその判断の中に、仕事の価値が隠れている。